闇に溺れた天使にキスを。
*
まるで抱き枕のように、きつく抱きしめられている。
それも建物の中ではなく、外で。
「未央、このバカ未央。
俺がどれだけ心配したか…無事でよかった未央!」
まるで数日間行方不明だった相手と、久しぶりに再会したかのような言い方をするのは他でもない、私のお兄ちゃんである。
あれから、私は最寄りのひとつ手前で降ろしてもらい。
一駅分だけ電車に乗って降りると、改札近くにお兄ちゃんが待機していたのだ。
やっぱりよかった。
ひとつ前の駅で降ろしてもらって。
そうでなければ、今頃誤解が生んでお兄ちゃんがすごいことになっていただろう。
歯止めが効かなくなる場合だってある。
そこまで心配する必要がないというのに。
お兄ちゃんは私の恋愛のことも深く聞いてくるのだ。
もちろん恋なんて、今までで一度もしたことがない。
小さい頃。気になるかも、という人はいたかもしれないけれど、本気で恋をしたことはなかった。