オープン・ステージ
2-26
 子供の頃を過ぎてから、俊太が私に触れてきたのはこれで二度目だ。
 一度目は、夏休み前にプレハブ小屋で頭を撫でられた。

 いつもクールぶって、すかした顔をして歩いているような奴なのに。
 私は俊太を見返した。

 俊太も私を見たまま動かない。


「……?」

「……」


 ん? 何? なんだろう、これは――


 ――瞬間、ピューッと力強い音が鳴り響き、その音は空へ吸い込まれるように消え、最後にパンッと弾けた。

 聞こえてきた方を振り返ると、佳くんが予備の着火ライターを持って笑っていた。


「笛ロケット花火だって! 凄い音だったね!」


 辺りは既に真っ暗になっている。
 真っ暗とはいえ、祖母の家の明かりが漏れているので、二人の姿はそれなりに見えた。


「暗くなったし、普通の打ち上げ花火やろうよ。噴水花火もあったはず」


 私は佳くんの方へ歩きながら言った。


「ライターが二本あるなら、二本ずつ上げようか。僕と俊太でね」

「ああ、分かった」


 まずはオーソドックスな打ち上げ花火を二つ。
 間隔を開けて並べて置くと、佳くんと俊太は顔を見合わせて頷き、導火線に点火した。

 ヒューンヒューンんと、大きな音が空へ駆ける。
 パンパーンッという軽い音と共に、夜空に小さな花が咲いた。


「うーん……」


 私は眉間に皺を寄せる。


「やっぱ市販のは迫力に欠けるよなぁ……」

「パーンじゃなくて、ドーンが聞きたいよね。花も大きくて華やかなやつ。やっぱ夏祭りには行くべきだよね!」


 私は二人に向かって力強く言った。


「僕は二人と思い出が作れれば、何だって楽しいけれどね」


 佳くんは夜空を見上げたまま続けた。


「ここは本当に綺麗な星空だよね。僕はこの町の夜空が大好きだよ。プラネタリウムみたいな空だ……」


 俊太と私も空を見上げた。
 耳には鈴虫のたちの大合唱が響いている。もう、夏も終わる。

 佳くんはまた東京に帰ってしまう。

 そう思った瞬間、胸の奥が締め付けられた。


「ねえ、手持ち花火やらない?」


 私は寂しい思いを振り払うように言った。
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