インスタント マリッジ~取り急ぎ結婚ということで~
現地に到着すると、予想通り古本の向かいのマンションだった。

車を降りた尚史は、道路の向こう側の古本をチラチラ見ている。

おそらく店の入り口に貼られた手書きのポスターが気になるのだろう。

尚史はかなり目が悪いはずなのに、好きなゲームのこととなると視力が向上するのか?

ここ最近はゲームをする時間もほとんど取れていないだろうから、禁断症状が出ているのかも知れない。

そういう私も最近はゆっくり漫画を読む時間がなくて、古本を目の前にすると漫画を読み漁りたくてウズウズしている。

私たちは『素敵な新居探しをしている新婚ホヤホヤの夫婦』のはずなのに、新居になるかも知れない物件を目の前にしても、大好きなゲームや漫画がそこにあると思うとヲタク魂が騒いでしまう。

ヲタクというのは難儀なものだ。

「尚史、あとで古本付き合うから。今はこっちが大事でしょ」

「ああ、うん……そうだな」

外観だけは何度も見ていたけれど、そのマンションの中に入るのは初めてだったので、なんとなく物珍しくてキョロキョロしてしまう。

部屋の中は築年数からは考えられないほどきれいで、陽当たりも良く、資料にあったように広いリビングがとても魅力的だった。

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