身代わり令嬢に終わらない口づけを
「ああ、呼びつけてすまない」

 見た目よりも温和な口調で、カーライル公爵はローズに言った。笑みを浮かべると目元に細かい皺ができて、表情が柔らかくなる。

「留守をしていてすまなかった。久しぶりだな。そなたに会える日を半年前から心待ちにしていたぞ」

 やはり、ローズやベアトリスの知らないところで、この結婚はかなり早くから用意されていたのだ。この口調からすると、よもや公爵も、この結婚をベアトリスが聞いたのは数日前などということは知らないのであろう。 

 ぬるい笑顔を浮かべそうになった顔をあわてて伏せると、ローズは丁寧な動作で淑女の礼をとった。

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