身代わり令嬢に終わらない口づけを
「軽いわ」

「こちらのドレスに使われました布は、一枚布ではなく細かいレースで編まれております。その分軽く、通気性がよいので暑さを感じない作りになっております」

 確かに体をぴっちり覆っていても、締め付けるような感覚はまったくない。思ったより伸縮性のある生地だった。

(よかった。これならお嬢様でも着られるかもしれない)


「あら……奥様、お痩せになりました?」

 胸のあたりや腰のあたりを、お針子たちが器用につまんで針を刺す。緊張しつつも平静を装いながら、ローズは答えた。

「え、ええ、夏の暑さにまいってしまったみたい。でももうすっかり元気になりましたし、こちらのお食事がとてもおいしいので結婚式までにはきっともとに戻ってしまうわ。だからあまり詰めないでちょうだい」

「かしこまりました」

 そう言って余裕を持ってもらうが、それでもローズは内心気が気でない。

(どうかお嬢様が結婚式まで太りませんように)

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