身代わり令嬢に終わらない口づけを
 ローズの言葉が不満と聞こえたのか、メイドがなだめるように説明する。

「最近は、短くて薄い生地でつくられたものが流行りなのだそうです。特にこのデザインは最新なものを組み合わせてあるので、きっとそれに合わせたのでしょう」

「そうですよ、奥様。きっとハロルド様も……」

「ちょっと!」

 何か言いかけた一人を、隣にいた針子が厳しい声で制した。

「え?」

「奥様、ちょっと腕をあげてください」

「え、あ、こう?」

「はい、ありがとうございます」

「すみません、ちょっと下を向いて……お首、苦しくないですか?」

「大丈夫です」

「奥様、お髪はいかがいたしましょう? ご希望の髪形などありますか?」

「そうね……」

 あわただしく寸法合わせが終わると、ローズは窓辺の椅子に座らされた。

「腕によりをかけて、奥様の美しさを引き出してみせますわ」
 言いながら年配の女性が、先にしてあったローズの化粧を落としていく。
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