ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
7. 選考会②~ライアンside

「お待たせしました、遅くなっちゃってすみません」

倉庫から運んできた皿とボウルをキッチンカウンターに置きながら、飛鳥が微笑む。
その横には、あのカメラマンの男――矢倉がいる。
寄り添うように。

なんなんだ、あの距離は。

やり場のない黒い感情を紛らわせるように勢いよく椅子に座ると、
そのテーブルにいたメンバーが、一斉にこちらへ興味深げな視線を投げかけた。

「失礼」

唇だけで笑みを作ると、隣席のサムがおもしろそうに眉を跳ね上げる。

その口が、何かを言いたそうに開きかけるのを見て、
遮るようにグラスを掴み、水を煽った。

いくら付き合いの長い、親しい友人相手だろうと、
何も話したくない、余裕のない時はあるのだから。


スタジオに入った時、すでに不穏な予感はあったんだ。

――何言ってるのよっ。原因、そっちのくせに。自業自得でしょ。
――はいはい、反省してるよ。
――今、思いっきり適当に言ったでしょ?

あんな、じゃれ合う恋人のような2人を見てしまって。
飛鳥のあんな信頼しきった顔を見てしまって。

どうしうようもなく胸を突いたのは、嫉妬と焦り、だった。

< 121 / 343 >

この作品をシェア

pagetop