ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
エレベーターのドアが開き、他の人に押されるように、グランドフロアへ吐き出された。
カツン、カツン……
パンプスの足音が、なぜか今日は、ひどく頼りない。
前に聞いたことがある。
SDの任務は『トラブルが表ざたになる前に、迅速かつ秘密裡に処理すること』。
彼らは請け負うのは、監視だけじゃない。
相手の弱みを握ることだってやってのける。命令とあれば、でっち上げることも。
メンバーは全員、グループ内もしくは関連企業の御曹司ばかりだという。
望んでできないことなんか、ないに等しい。
彼らがもし、もしライアンに何か……
ガラガラと、足元が崩れ落ちていくような心もとなさに、思わずよろめいた。
「おいっ! 気をつけろよ」
ぶつかった相手の不機嫌そうな声に向かって、上の空で謝りながら。
私はぎゅっと両手を握り締め……しばらく動けなかった。
◇◇◇◇
「それでは、こちらの資料はお預かりさせていただきます」
「楽しみにしてるわ、真杉さんのプレゼン」
「はい、ありがとうございます」
「それはそうと、リリィの春フェスだけど、真杉さんも行くんでしょう? うちもね……真杉さん?」
「……えっ?」
「どうしたの? さっきから、全然集中してないみたいだけど」
我に返って顔を上げると、きれいな眉をひそめた柴田さんが、こちらを訝し気に見つめていた。