ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

一瞬にして、自分がサンビバレッジの会議室にいることを思い出した私は、さぁっと全身青ざめる思いで頭を下げた。
「す……すみませんっ! あの、申し訳っ――」

「何かあったの?」

「……え?」

「何かあったんでしょう、あの恋人のこと? 真杉さんがミーティング中にぼんやりするなんて、よっぽどのことだものね」

テーブルに頬杖をついた柴田さんに優しく言われて、ますます私は小さくなる。

クライアントに気を遣わせるとか、情けないったら……

「あの後、彼の過去については話し合ってみた?」

「いえ……それが……別の問題が出てきちゃって」

「別の?」

聡明そうな瞳が、くるりと輝く。
「どう? もしよければ、話してみない?」

一瞬何もかも打ち明けてしまいたい衝動に駆られたけど……

マフィアだの、次期総帥だの、あまりに私たちの日常とは遠すぎるワードだ。
話したところで、信じてもらえるとは思えない。
私だってまだ、夢を見てるみたいなんだもの。

逡巡の末、私が切り出したのは別のことだった。

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