ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】
「あの、柴田さん先日おっしゃってましたよね。忘れられない人がいるって」
「あらやだ、覚えてたの? お酒の席の話なんて忘れてよ」
「いまだに想い続けるほど好きだった人なのに、別れるっていう選択肢しかなかったんでしょうか?」
別れ以外の選択肢。
この人もまた、それを放棄した。
そのことが、なんだかとても悲しかった。
別の道なんかないんだと、現実を突き付けられているようで。
それでつい、聞いてしまったんだけど……
予想外に責めるような口調になってしまったからか、柴田さんの顔からサッと笑みが消え。
私はあっという間に後悔して、「ごめんなさいっ!」って謝った。
「不躾な事、お聞きしてしまって」
「いいの、いいのよ」
すぐにいつもの調子を取り戻した柴田さんは、ふぅと息をつくと、物憂げに窓の外へと視線をやった。
遠い、つかみどころのない眼差し。
一体何を、想ってるんだろう?
「……彼とはね、大学時代から付き合っていて……卒業する時、お互い仕事に慣れた頃結婚しようってプロポーズされて。幸せだったわ。この人と、一生一緒にいるんだって、信じてた」
「じゃあ――」
薄くルージュを引いた形のいい唇が、わずかに震えて。
その後キュッと引き結ばれた。
「20代の半ばに私、病気になっちゃってね。手術して、治ったんだけど……子どもの望めない身体になってしまったの」