ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

――飛鳥さん、もしかしたらお前のこと、まだ想ってるかもしれない。

拓巳からそんな話を聞かされたのは、殴られたあの朝のことだった。

その前日、飛鳥は自分から、僕を訪ねてきてくれたらしい。
拓巳はただ会社の前で居合わせただけなのだそうだ。

――彼女、泣いたんだよ。お前がボロボロだって聞いてさ。

拓巳の気のせい、じゃないかな。
飛鳥の気持ちがまだ、僕のものだなんて。

ただ……そういわれてからよくよく記憶を巻き戻してみて、気づいたことがある。

――私たち、一度別れたんだけど……今回の仕事で再会して……やっぱり忘れられないって気持ちが大きくて。そしたら彼も、同じ気持ちだって言ってくれて。


彼女は矢倉と、オオタフーズの仕事で再会して、気持ちを再確認したと言ってたけど。

冷静に思い返してみれば、彼女が部屋を出て行ったのは、選考会……つまり再会の翌日だ。いくら想いが再燃したから、僕に対して不安があったから、といっても急展開すぎないか?

まるで、あらかじめ決めてあった別れに、それらしい理由をとってつけた、そんな風にも思えてくる。
僕が断れないだろうっていう、もっともらしい理由を。
本当に、彼女は僕と別れたかったんだろうか……


「I wish……願望、だな。ただの」
小さく笑った時。


RRRR……

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