ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

『ええありますよ、でも……ちょっと待ってくださいね』

カチカチっと何かをクリックする音。
パソコン画面でスケジュールをチェックしているらしい。

『すみません、今日はイベントがあって、埋まってますね』

「そうですか……」
ダメか、いいアイディアだと思ったんだけどな。

『再撮にしますか?』
「いったん預からせてください。そのまま会社の方でお待ちいただけますか? 決まり次第、すぐにご連絡いたしますので」

通話を切って、考える。

バラして再撮ってことになれば、食器もその他の小物も、もう一度借り直さなきゃならない。食材はすべて買い直し。
経費としてはそれほど大きくないかもしれないけど……スタッフだって、同じメンバーの日程がそろうかどうか。
雅樹も南波さんも、売れっ子だしな……

しかも、ウェブページのアップまであと1週間しかない。
今日の撮影だって、日程的にはギリギリのところだったのに。

メンバーの不安そうな顔を見回して、わずかに心拍数があがる。
ここは、私が早く決めないと。

みんな、どうしたらいいか困ってる。
さぁどうする?

30分だけ、他のスタジオを探してみて、できなければ再撮……それでどうだろう。
よし、と、とりあえずの方針を自分の中で出した――

そこへ。


「うちにこない?」

突然、重苦しい空気には不似合いの、明るい声が響いた。
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