ガラスの靴は、返品不可!? 【前編】

「…………は? 何?」
ストーキング? つまり、ストーカーされてないかって?

「この前の撮影の時、スタジオの前に妙な男がいたんだ」

私の髪を、背中を、優しくなでながら、彼の言葉は続いた。
野球帽をかぶった若い男で、私を見ていたらしい。

「ラムに聞いたら、前にも同じようなことがあったっていうし。もしかして、心当たりがないかなと思って」

目の前の光景が、さぁっと色を失っていくようだった。
ざらりと、口の中に砂を噛むような感覚が広がる。

あぁやっぱり、ダメなんだな。
うまくいかないんだ、私たち。

歪んだ唇を隠すようにうつむきながら、彼の胸を押しやって身体を離した。

「飛鳥、何か困ってることがあるなら――」
「やだな、ストーカーなんかじゃないわよ。ああいうスタジオってよくいるの。撮影終わりを待ってるファン。出待ちって言うんだけどね。だから心配しないで」

明るく言って、もう一度彼の胸をトンと軽く押す。

「ほら、もう帰って」

「帰り、僕の車で――」
「いい、“彼”に来てもらうから」

硬い声で言った瞬間。

パキンっと――、空気が凍り付く音が聞こえた気がした。


「……そう」


冷ややかな言葉とともに、表情を消したライアンが立ち上がる。


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