ヴァンパイアRose
♰表と裏♰
「おはようございます。」



あれからはごく普通の生活を送った。



ここでの生活も少しずつ慣れてきて、落ち着けるようにもなった。



朝食を食べていると、ナツメさんが口を開く。



「ねぇ、新人さんにも料理当番回すの?



そろそろ交代なんだけど」



料理当番?



「そうだなぁ…」



アレクが腕を組む。



「あの、すみません。



料理当番とは…」



「はぁ…?!



そんなこともわからないわけ?」



「いえ、その…料理するんですよね?



仕組み…が、わからないというか…」



するとカイラさんが


「僕たちはみんなで生活しているから、2週間ずつ、交代で当番を決めてるんだ。



今日でナツメ君は終わり。」



そ、そうなんだ…。



カイラさんの話いわく、



最初がアレクさん、その次がクロウさん、カイラさん、ナツメさんとなっているようだ。



そこに私も入るということだろう…。



料理か、、、



「なら、明日から頼めるか?」



アレクさんがこちらをみる。



「うっ、えっと…」



出来ることなら役に立ちたい!



何にもせず泊まるなんてそんなことはできない。



でも、料理は苦手だ。



唯一できるのは卵焼きや目玉焼きぐらいで…。



「あの、それで良いんですけど…」



「けど?」



「わ、私…料理ができなくて…」



するとナツメさんが信じられないと言ったように目を見開く。



「あんた、女だよね?



そんなこともできないでどうすんの?」



「ご、ごめんなさい…」



私はなぜかとっさに謝っていた。



「よし、ならナツメ。



お前がこいつに教えてやれ。」



アレクさんのまさかの発言でナツメさんはまた目を見開く。



「な、なんで僕がこんな鈍臭そうなやつを…」



ど、鈍臭い…。



まぁ、認めるけども…。



「よ、よろしく…お願い…します。」



何を言われるかわからないから怖い。



しかもナツメさんはズバリという人だから余計にビクリとする。



「よし、今日の昼ご飯から頼むな〜」



アレクさんは「原稿原稿〜」と言って出て行った。



「樹里ちゃん、頑張ってね。



あぁ見えてもナツメ君、結構面倒見いいから。」



そう言ってカイラさんが私の肩をポンと叩く。



そ、そうだといいけど…



クロウさんはいつものように無言で出て行った。



今見ても、あの時のクロウさんは貴重だったのかもしれない。



そう思う。



そしてダイニングには私とナツメさんだけになった。



「…ところでさ、あんた、何が作れるわけ?」



何…!?



「め、目玉焼きと卵焼き…



あ、あとレシピさえ見ればカレーも…。」



「で?」


で?とは??



「ちょっ、それだけ!?



それだけじゃないよね?」



うぅ…



それだけ、なんですよ…。



私は答えることができずに下を向く。



「ほんとかよ…」



ナツメさんは頭を抱えて唸る。



「ほ、本当にごめんなさいっっ」



私はただ謝ることしかできない自分が嫌になる。



「なら、早めに作らないとってことか…。



大体12時ぐらいには食べれればいいから…



でも、鈍臭そうだし…10時にキッチンに集合ね!」



そう言ってナツメさんは出て行った。



10時。


つまり2時間前だ。



それくらい早めの方が私からしても安心できる。



私も完食し、食器を片付け部屋に戻る。



料理本とか、買った方がいいのかな?



まぁ、買ったところで用語すら理解できそうにないけど…。



やっぱり女の子だと、できないといけないんだよね…なら、裁縫とかもか…。



そう考えるとため息が溢れる。



私、女子力0じゃん。



まぁ引きこもりが女子力高くても信じられないけど…。



すると、コンコンと扉がノックされた。



私が扉を開けるとそこにはナツメさんが立っていた。



「あ、えっと、なんでしょう…」



まだ時間ではないはずだ。



「…これ。」



そう言ってナツメさんが私に差し出してきたのは料理本だった。



そこには『初心者でも簡単!』と記されていた。



「べ、別に君とためとかじゃないから…。



ただ、あんまり足を引っ張られると困るからってだけで…。



それに、僕も昔はこれ使ってたしね。」



「あ、ありがとう!ちょうど探してたの。



さすがに買った方がいいのかな〜って思ったけど、何がいいのかもわからなかったし。」



私は受け取り、そっと抱える。



「その中で今日作るのは肉じゃがだから、そこのページでも見てよね。



じゃ、じゃあね。」



そう言ってナツメさんは扉を閉めた。



意外と親切だなぁ。



私は早速ソファに座り、本を開く。



パラッ



私が本を開いた瞬間メモのようなものが落ちてきた。



なんだろう?



私はその紙を拾い上げる。



そこには



ナツメ君へ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
いつも美味しい料理を作っていて、毒舌だけど、
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
本当は優しくて、ツンデレなところとか、
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
そんなナツメ君がずっと好きだったよ。本当は
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
この手紙を渡すのを迷ってた。いままでの関係
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
が崩れちゃうんじゃないかって…。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
でも、やっぱり好きだから、ちゃんと書くね。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ナツメ君のことがずっと前から好きでした。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
だから、私と付き合ってほしい。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
返事、待ってるね。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
クレア
 ̄ ̄ ̄ ̄



こ、これって…



ラブレター!?



ど、どうしよう、私…読んじゃったよ!?



私は部屋の中をぐるぐる回る。



ううん、ちゃんと渡さなきゃ。



私はナツメ君の部屋へ向かった。



コンコン



扉をノックするとすぐにナツメさんが出てきた。



「何?」



「あの、これ…挟まってて…。」



するとナツメさんは素早く私の手から手紙を取る。



「君…これ、読んだ?」



「えぇ…っと…」



私は視線を泳がせる。



「…はぁ、読んだんでしょ。」



「ご、ごめんなさい!



読むつもりじゃなかったんですけど、その…気になって…」



「言い訳なんていいよ。



こんなものどうでもいいし。」



こんな…もの?



誰かはわからないけど、ナツメさんへの想いが詰まってるのに…。



「そ、そんな言い方は…。



この手紙の主さんのナツメさんへの想いが詰まってるのに…」



「…あのさぁ、あんたクロウの時もそうだったけど、毎回毎回口挟みすぎたよ?



それで何かトラブルに巻き込まれても知らないから、それに、あんたには関係ない話でしょ??」



それは最もだ。



クロウさんの時もそうだった。



でも…。



私が俯くとナツメさんが言った。



「まぁ、僕も言い方が…悪かったかもしれないけどさ…。」



ナツメさんは手を顔の前に持っていき、顔を隠す。



ナツメさん…。



「…もういいから、ほらっどうせもうすぐ10時なんだし少し早めにやるよ!」



ナツメさんに強引に話をそらされ、キッチンに連れていかれた。



「あ、あの…まだレシピ読めてないっていうか…その…。」



「そんなのわかりきってるよ。



ていうか、あんたがレシピ見たところですぐに覚えられるとも思ってないし。」



うっ、傷つく…



ナツメさんはそう言いながら必要な素材を机の上に並べていく。



「まずは、これの皮でも向いてて。」



そう言ってナツメさんはニンジンを私に渡す。



「はい!任せてくださいっっ」



皮を剥くぐらい私にでもできる。



その間にナツメさんはジャガイモをどんどん削っていく。



「は、速い…」



「なんで手を止めてるわけ?」



「ご、ごめんなさいっ」



私は引き続き皮を剥く。



そして剥き終わり、包丁で刻んで行く。



トントントントントン



あまりの手際の良さに見とれてしまう。



ナツメさんは次から次へと切っていき、それも全部大きさが等しい。



「あのさぁ…」



ナツメさんは私に注意をするのも諦めたようにジロリと睨む。



「あ、そうですよね、ごめんなさいっ!



あまりに上手いので…」



「はぁ?こんなの普通だし、それにあんたがおかしいんだよ!」



え?そ、そうなの…



「まぁ、僕が1番速いし、美味しいんだけどね。」



付け足すように言う。



喜んでいるのか、否定してるのか…



もしかして…ツンデレ??



私はクスリと笑う。



「何笑ってんの?」



私はまた「ごめんなさい」と言って、ナツメさんの指示の元作る。















「で、できましたっっ!」



なんとか12時までに完成させることができた。



「ふぅ、あんたも意外とやるじゃん」



ナツメさんに褒められ、少し嬉しくなる。



「えへへ」



「べ、別に褒めてはないからっ!」



ナツメさんは我に返ったように言う。



そんなこと言われてもいいも〜ん、ツンデレなだけだってわかってることだし。



私は一人ニコニコ笑っていた。



「気持ち悪いよ…、僕は食事の準備するから、みんなを呼んできて。」



「わかりました!」



私は階段を上っていく。



いつもより心が軽い。



ナツメさんと完璧に打ち解けられた訳ではないけど、だいぶ打ち解けられたのではないか、と思う。



コンコン



先にアレクさんの部屋をノックする。



「アレクさーん、昼食できましたよ!」



「おう、この原稿片付けたら行く」



扉越しに返事が聞こえ、私はカイラさんのところへ向かう。



「カイラさん、昼食できましたよ。」



「ありがとう、今いくよ。」



あとはクロウさんだな。



「クロウさっ…」



私が呼びかけるのと同時にクロウさんの部屋のドアが開いた。



「今行く…。」



とだけ言ってスッと通り過ぎる。



「は、はい。」



私もクロウさんに続き下りていく。



ダイニングにはカイラさんとナツメさんが既に座っていた。



アレクさんはまだかな?



私は後ろを振り返り、アレクさんの部屋を見る。



原稿片付けるって言ってたよな…。



グラッ



体が傾く。



あれ、なんで…



私が足元を見ると階段を踏み外していた。



「わっ!?」



私は慌ててバランスを取ろうとするけど、うまくバランスが取れない。



「ちょっ」



「樹里ちゃん!?」



ナツメさんとカイラさんも慌てて立ち上がるけど、流石に間に合わない。



私はそのまま前へ倒れていく。



するとクロウさんが私を抱きとめてくれた。



「ご、ごめんなさい…。



ご迷惑をおかけしてしまい。」



私は恥ずかしくなって下を向く。



「…別にいい。



こんなの、迷惑でもなんでもない。」



「クロウ…さん…。」



「お〜い、何イチャついてんのかな〜」



カイラさんが見てられないと言ったように茶々を入れる。



「い、イチャついてなんていませんよ!」



「ほんとにぃ〜」



カイラさんは「怪しい〜」と言う。



「勝手なことを言うな。」



クロウさんは不服そうに席に着く。



そうですよ…。



「へぇー、この間まで女嫌いだったあのクロウ様が



ふつうに樹里ちゃんに触れてるし、話せるようにもなってるしさ…」



カイラさんは再び私たちを見比べる。




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