after「恋がしたい。ただ恋がしたい。」
「…………うわっ、怖っ。あんた、その顔で一度店で接客してみなさいよ。絶対ファンが減るから」
「嫌だよ。毎日タダで笑顔振り撒いて地道にお客様を増やしてきたのに、何でわざわざ減らすようなマネをしなきゃいけないの」
「でもさ、結婚したらどっちみちお客様減るじゃない」
呆れ顔の紫に、また裕介くんは黒いニヤリ笑いを見せた。
「それは大丈夫。僕の顔なんて、最初にお客様を集める為のエサみたいなもんだから。この一年で僕が結婚しようが何だろうが関係無く来てもらえるくらいの常連さんは充分に獲得してきたつもりだよ」
「むしろ、香織ちゃんと結婚する為『だけ』にこの一年頑張ってきたんだから、そろそろご褒美が欲しいな」
そう言うと、裕介くんは膝に置いていた私の手をキュッと握ってきた。
裕介くんは私の左側に並んで座っているから、自然と私の左手を握る形になる。
裕介くんの長くて綺麗な指先が、手の甲を辿りながら薬指にたどり着き、指の付け根をするすると撫でる感触がした。
私の左手の薬指には、付き合い始めてすぐに裕介くんからもらった指輪が嵌まっている。
あえてそこを撫でるって事は……
裕介くんの言う『ご褒美』が何かを悟って、ますます頬が熱くなった。
……私と結婚する為だけに、計画的にキラキラキラースマイルを使っていた、という事実には驚きを隠せないけれど。