甘い罠に囚われて
彼はいつだって私の側にいる。

会いたくなればいつだって会える。

そう、彼はそこかしこに溢れている。

いや、違うか。

会えるんじゃなくて見れる、か。

何故なら毎日メディアが彼を発信し続けている。

彼はーーー

別世界の人。

私からそっちに行く事は決して出来ない。

私はただ彼を待つだけ。

会いたい…なんて言えない。

彼が会いたくなった時に会いに来てくれる。

それだけで十分。

今夜も月を星を見ながらそんな風に呟いてみる。

彼が以前やっていたお酒のCMの様に。

CMの中で彼は優しい月明かりに照らされ溶けつつあるグラスの氷を指先でくるりと回し呟く。

ーーーもっと酔ってよ。お酒にも…僕にも

その美しくも妖艶な雰囲気を醸し出すCMは瞬く間に彼をスターへと押し上げた。

それからの彼は月明かりどころかもっと眩しく輝くスポットライトをずっと浴び続けている。

今夜も私の心に月の明かりも星の煌めきも届く事はない。

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