甘い罠に囚われて
KAKERUとはまた暫く会っていない。

ダメ元で受けた海外での映画オーディションで見事役を勝ち取りその撮影の為にロスに行ったきりだ。

けれど相変わらずいつだって彼には会える。

テレビをつければそこにいる。

雑誌を捲ればまたそこにも。

相変わらずメディアから彼は発信され続け常に溢れている。

遠い遠い宇宙の果ての人くらい別世界の人だ。

けれど、これまでとは違う。

私の左手に輝くリング。

世間は人気者の【電撃結婚】にかなり揺れた。

けれど彼曰く、「電撃じゃない。俺の中では想定内だ。」と。

だから彼があの華やかな別世界の住人であろうとも必ずここへ帰ってくる。

私のいる場所にーーーほら、

玄関を開けると少しまた逞しい顔付きになった彼が立っている。

「おかえりなさい。」

「ただいま。」

別世界からのご帰還、お疲れ様。

ふと思う。

もしかすると蜘蛛の糸を張り巡らせているのは私かもしれないな。

その糸に絡まれた彼はきっと永遠に私から離れることはないーーーなんてね。

「先にご飯食べる?日本食たくさん用意してるよ?」

「サンキュ。だけどそれよりも今すぐ俺の奥さん食べたい。足りなさ過ぎて死にそうだよ。」

軽々と抱きかかえられこちらの有無も聞かずに寝室へ。

やっぱり、彼の蜘蛛の糸に捕らわれているのは私か。

これから始まる彼との甘い時間を思い浮かべベッドに横たわりながら私は彼の首へと腕を絡めた。

この瞬間から彼はこちらの住人となる。

私との甘い甘い世界の住人にーーー



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