三坂くんはまちがってる
「なあ」
生徒玄関、私はいつものように靴と上履きを履き替える。
視界に三坂くんが入ってきたけど、
気にしないように 目をつけられないように
距離を置こうとした。
「なあって」
三坂くんが誰かを呼んでる。
どうやら返事してくれないらしいが
私には関係ない。
と思っていた矢先、
思わぬ体温と感覚が
私の右腕に伝わった。
「お前を呼んでるんだけど、山田」
一瞬、彼が何を言っているのか分からなかった。
というか今彼が、私という山田を認識して
山田に声をかけているという状況そのものに
なんとも現実的でない気しかしなくて
とにかく私は、
しばらくの間放心した。
「聞いてる?喋れない?」
以前の私なら今の、三坂くんの表情は
ただ困惑するというか
心配とまではいかない戸惑いのそれに見えていたんだろうと思う。
けれど、
三坂くんが私を嫌っていると知った今となっては
ただただ彼が、
私を嫌悪しているかのような表情に見えてたまらない。
私は怖気付いた。