初恋の花が咲くころ
アイツがやってきた
恋の病とはよく言ったものだ。
風邪だと診断された途端、急激に具合が悪くなるのと同様に、あやめに指摘されてからというもの自分が編集長を好きなのだと意識し始めてしまった。それ以来、彼の一挙一動が気になって仕方がない。今まで幼稚だとさえ思っていた相手が、突然輝いて見えるだけでなく、ちょっとした仕草で心揺さぶられてしまう。
その度に、彼の好きな相手はあやめだと言い聞かせないと、どんどん深い沼にハマって行きそうで怖かった。

ランチから戻ると、自分のデスクの上にカカオ82%チョコレートの箱が置いてあった。その上に貼られている猫のポストイットに〈ドーナツのお礼だ。食え〉と、意外にもキレイな字で書かれていた。
甘党の彼が、ビターチョコは認めないと言っていた彼が、わざわざこれを買ってきてくれたのだと思うと、勝手ににやける自分がいる。
向こうに特別な感情はないと分かっていても、恋してはいけない相手だと頭では理解しているのに、出社すれば彼の姿を探している自分がいる。自分一人だけ同じ部屋を使っている待遇に優越感を感じてしまう。

これは、病気だ…
私は病気だ…

咲は自分の頭をゴンゴンと自分のデスクに打ち付けながら、我を取り戻そうと躍起になっていると、突然内線が鳴った。向田さんだ。営業課に頼まれごとをしれくれないかと、言われ、じっとしてたら頭がおかしくなると思った咲は二つ返事で編集長室を飛び出した。
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