初恋の花が咲くころ
初恋の花が咲くころ
フランスに来てから、どんなに忙しくてもあやめと連絡は取り続けていた。時差の問題もあって電話出来ない日々が続いたが、今日はどうしてもあやめと話がしたかった。
「今日、デザイン部のレイさんがこっちに来てね、編集長が異動になったって聞いたんだけど」
パソコンの前に座り、画面の向こうのあやめに話かける。
―「うん、本当につい最近だけど」―
「どこに異動になったの?」
半ば喰い気味に咲は尋ねた。
―「知らないの。上が秘密裏に決めたことだから。たぶん社内の誰も知らないんじゃないかな。結構前から、会社にも来なくなってて。私もずっと会えていないんだ」―
あやめは、レイさんと同じような困った表情を浮かべている。
何かあったんだろうか。
「売り上げが落ちたとか?」
思いつく理由がなくて、思わず口から出た言葉に、あやめがぴしゃりと「不吉なこと言わないでよ。売上は少しずつ上がってます!」と答えた。
―「きっと、社長とかが考えてのことだと思うから、大丈夫だよ」―
咲の気持ちを汲み取ったのか、自分に言い聞かせているのか、あやめが優しく言った。
「…そうだね」
元気なく答える咲に、話題を変えようと明るくあやめが言った。
―「あ、そういや、来月帰って来るんだよね?車で迎えに行こうか?」―
「本当?助かる。お土産買っていくね」
―「マカロンよろしく!」―
「そう言うと思った。了解です」
それからお互いに「おやすみ」を言い合ってテレビ電話は終了した。
久しぶりにあやめの顔が見られて、ホッとしたし元気も出た。ずっと一緒にいた親友だけあって、ここに来て初めて日本が恋しいと、咲に感じさせた。
編集長のことは気がかりだが、自分が出来ることは何もないだろう。
咲は気持ちを追い払うかのように、軽く頭を振った。
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