行き着く先は・・・甘い貴方の檻の中?
初めて迎える二人だけのクリスマスイブ。

それが二人の入籍日だった。

「西園寺波留斗さん」

「なんだよ。さくら」

「さくらの話も聞いてくれる?」

「ああ、話せ」

ソファに座り寄り添う二人。

室内用の小さなクリスマスツリーと蝋燭の炎が二人を照らしていた。

波留斗の肩に寄りかかりながら、さくらは自分語りを始めた・・・。

頭もよく、何でも要領よくこなしてきたさくら。

実は、さくらにも生まれてくるはずの弟がいたらしい。その子は、妊娠早期の段階で流産し、その次にできた子も、やはり流産した。

「親戚からは゛西園寺家には一人しか子供は生まれない。だからさくらが生まれた時点で、他の子の人生は決まったようなもの゛゛どうせなら男の子が良かったのに゛って陰口を言われていたんだ」

波留斗は自分がさくらからそうしてもらったように、口を挟むことなく、さくらの頭を撫でていた。

「一番辛かったのはお母様だってわかってる。お父様も同様だ。さくらが悪いわけでも運命のせいでもない。でも・・・」

「でも?」

「何も望んじゃいけないと思ってた。周囲の期待に応えること、それが使命で運命で・・・。何にも夢中になれなかった」

何に対してもニュートラルなさくらの瞳にジワジワと涙が浮かぶ。

「でもね、桃子がコスプレイベントに誘ってくれて、違う自分になれたとき、初めて解放された気がしたんだ」

「ああ、イキイキしてた。本物の男かと思った」

ポカッ、と波留斗の頭を叩くさくらの拳に力は入っていない。

「その時、波留斗が声をかけてくれた。西園寺さくらに対する偏見ではなく、見たままのさくらに興味を持ってくれた。それに・・・同じ憂いを滲ませた波留斗に、さくらは興味を持ったんだ」

波留斗を見つめるさくらは、真剣な面持ちで波留斗と向き合った。

「今のままでは西園寺と向き合っていなかった。もしも子供が生まれたら、波留斗も両親と同じ思いをするかもしれない。後出しじゃん拳みたいになって申し訳ないけど、それでもいい?」

「後出しじゃん拳って・・・」

西園寺家の運命とやらを憂いてのさくらの発言なんだろう。

「お義母さんとお義父さんがその事でさくらを責めたのか?」

「ううん。お義母さんは着床しにくい体質らしくて、さくらが生まれてくれただけでもラッキーだったと笑ってる」

「だろうな」

波留斗は苦笑しながらもハッキリとさくらに告げた。

「代々、一人っ子は皆、男子ばかりで、女子が生まれたのははさくらが初めてなんだろう?」

さくらはコクりと頷いた。

「南條家は代々、最低二人、多くて十人兄弟と子沢山だ。俺が婿養子に入ったんだ。大船に乗ったつもりでいろよ」

波留斗の発言に、さくらは出かかっていた涙を止めて、フッと笑った。

「なにそれ」

「最低でも一人の子供は授かるんだろ?悩む必要ないな」

「そうだね」

「さくらも俺も自分とは関係ないところで悩んで立ち止まってバカみたいだろ?これからはうんと楽しむしかない」

微笑むさくらにチュッと優しいキスをして、波留斗は

「早速、子作りに励むとするか」

と、さくらを抱えあげてベッドに向かった。

「子供はまだだよ。仕事が落ち着いてから・・・」

「了解。失敗したらごめん」

「もう」

お互いの古い傷をさらけ出し、愛を確かめあったクリスマスイブは熱く静かにふけていった。
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