もうひとりの極上御曹司

ウォークインクローゼットといっても三十畳以上はある広いスペースの壁面すべてに据え付けられた棚やラックに収められたものはすべて千春のものらしく、それだけでもめまいを感じたが、隣の部屋にも着物がいくつも用意してあると聞いて本当に倒れそうになった。

驚いたのは数だけでない。木島家の奥様が用意したものに一流以外のものはないに違いなく、ブランドに疎い千春でさえ知っている高価なものばかりが揃えられていた。

「明日はどれでも好きな服を選んで着たらいい。大学までは俺が送っていくから」
「えっと……はい」

素直に頷いた千春に愼哉はくすりと笑い、肩を抱き寄せた。

普段なら手をつないだだけでも顔を真っ赤にし体を強張らせるのに、今は素直に体を預けてくる。

「どうした? 母さんがすることにいちいち驚いていたらこの先ついていけないぞ」
「はあ……」

千春は力なく答えた。

これまで何度も緑には驚かされてきたが、いつの間にこれほどたくさんの洋服を用意していたのだろう。

驚いたのは洋服だけではない。

夕方、愼哉から千春を連れて帰ると連絡を受けた木島家ではすぐさま準備が始まり、ふたりが帰宅したときには食事の用意は完ぺきに整えられ、シャンパンもちょうどいい具合に冷えていた。

世界各地の有名ホテルで腕を振るってきたシェフを何人も抱えている木島家では当然なのだろうが、訪ねた早々手の込んだ料理が並ぶテーブルを前に、千春は脱力し、ある意味あきらめにも似た感情をやり過ごした。

おまけに。

『千春が緊張してる顔を見に来た』



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