もうひとりの極上御曹司

「悠生も出張で家を空けるはずだったんだけど、俺がちゃんとプロポーズするかどうか見届けろと母さんに言われて残ったらしい。あいつのことだから、母さんに言われなくても俺の背中を押すためになにかしらしたと思うけど」

背後から千春の手元を覗き込むように顔を近づけ、愼哉が声をかけた。

ピクリと体を震わせた千春を安心させるように、そのままキスを落とす。

小さなリップ音が木島家の広いダイニングに響き、千春の顔は恥ずかしさで真っ赤になった。

「愼哉さん……あ、あの。みんな見てますけど」

あわあわと焦る千春にかまわず、愼哉は彼女を背後から抱きしめる。

「まわりのことは気にするな」
「で、でも、とにかく離れたほうが」

愼哉の腕の中から抜け出そうと必死でもがく千春に、同じテーブルについている緑と成市から温かい視線が向けられた。

「で、千春ちゃんはいつからここに住むんだ? まさか別居だなんて寂しいことは言わないよな?」

コーヒーを飲みながら、成市が弾んだ声で問いかける。

国内最大の企業グループのトップとしての威厳はどこに置き忘れたのかと思えるほどの笑顔を浮かべる姿は単なる気のいいおじ様だ。

愼哉と悠生の父親だというだけあって、整い過ぎて近寄りがたさを感じさせる雰囲気も、半減している。


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