もうひとりの極上御曹司
「あら、別居するなら私も一緒についていくわよ。ようやく千春ちゃんと親子になれるのに、引き離さないでほしいわ。だって私たち相思相愛なんだもの。ね、千春ちゃん」
成市の隣で食事を終えた緑も、身を乗り出し会話に参加する。
昨日成市とともに北海道から急遽屋敷に戻って以来、愼哉と千春の結婚に向けて意気揚々と準備を進めているのだ。
もちろん、アマザンホテルで結婚式を挙げることも緑が決めた。
「今日は早速アマザンに行って、色々相談しましょうね。あ、花嫁の母親の心構えっていう本を吉見に用意させて読んだのよ。とても忙しくなりそうだけど、千春ちゃんのためだもの、財界の集まりや木島グループの奥様の会もしばらくお休みして頑張るわ。あ、ブライダルエステも一緒に通いましょうね。でも、行く時間が取れないかもしれないから、空いている部屋をエステルームにしてエステティシャンに来てもらうのもいいわね」
きゃっきゃと女子高生のように話し続ける緑に、愼哉の冷ややかな目が向けられた。
それに気づいた成市が、緑の膝をそっと叩き、首を横に振る。
「緑、少し静かにしようか」
「え? どうして? こんなおめでたい日に静かにしてられないわ。成市さんだって、千春ちゃんが早くお嫁に来てくれないかなって楽しみにしていたでしょう?」
緑は訳が分からないとばかりに首を傾げた。
お嬢様育ちで無敵の世間知らずの本領を発揮する緑に、慣れているとはいえいよいよ面倒になった愼哉は大きくため息をついた。
「別居はしないけど、離れをいったん取り壊して新築する。それと、今日は千春は大学だからホテルでの打ち合わせには週末俺が一緒に行く。父さんと母さんは来てもいいけどおとなしくしていてくれ。勝手に決めるなよ。それと今日から警護……」
「だめよ。千春ちゃんをひとり占めしないでほしいわ。今日は千春ちゃんとのランチの予定も立てて銀座のお店を予約したのよ。千春ちゃんが大好きなお寿司なのに、それを邪魔するの?」
淡々と話す愼哉の表情が険しいにも関わらず、緑が愼哉の声を遮った。
途端、愼哉の目が鋭く細められ、口元が歪んだ。