果報者
たった1本だけ、
1本だけ俺の指を掴んだその手は



夏の風に負けんぐらい冷たくて
吹く風にも負けんぐらい震えてて



たった1本だけで繋がれた2人の距離が
今にも離れてしまいそうで



ふた回りほど大きい俺の手で
離れんようにと繋ぎ直した。






「そろそろ帰ろか。
明日早いやろ。」


「ん。」






ただ2人で夜の湖を眺めただけの時間。



何も話さず
強く手を繋いで過ごしただけの時間。







「これからも......崇裕くんに
幸せいっぱい訪れますように。」





まっすぐ前を見つめてそっと放たれた言葉。






「何言うてるん、一緒に幸せになろうや。」





また強く繋ぎ直した手。
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