現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
だからグレースはうっかり忘れてしまっていたのだ。お茶会で出会った初対面の相手からの視線とその意味を。




「急な訪問で申し訳ない。ですがどうしてもグレース嬢とお話をしたくて」

お茶会からきっかり一週間後、黒のフロックコートにグレイのクラバットという正装で紳士的な笑みを浮かべたカーライル子爵ジャックがグランサム公爵邸の玄関に立っていた。

事前に手紙のない訪問は非常識だし、会わずにお帰り願っても失礼には当たらない。とはいえ、レディング伯爵の仕事を手伝っている彼はヴェネディクトやグランサム公爵の取引相手とも言える。
訪問を伝えた執事が主人の立場と客人であるグレースへの気遣いの板挟みになってその顔に困惑を浮かべるのに同情し、眉を下げながらもなんとか笑みを浮かべて会うと伝えた。

そして、カーライル子爵を庭の東屋に案内してもらう。

「グランサム公爵もヴェネディクトも外出していますので、こんな場所で失礼します」

暗に自分の家でもないし、邸の主人のであるグランサム公爵の許しを得て家にあげるではない、だから客間ではなく誰からも様子の見える開けた場所にしたと暗に言ったのだ。だが皮肉と言ってもよいグレースの物言いを、カーライル子爵は軽く肩をすくめただけで受け流した。
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