現実主義の伯爵令嬢はお伽話のプリンセスと同じ轍は踏まない
「構いません。こちらこそ、かなり礼を失した訪問ですからね。会っていただけただけで満足です」

相変わらず視線は鋭いが、今日は幾分か好意的だしその口調には大人の男性の余裕も感じられる。

「あら、常識はお持ちのようですね」

それでもツンとした口調で言い返したのはこないだのお茶会で彼から向けられた視線への仕返しだ。

「これはまた手厳しい。でもま、仕方ないかな。初対面であんな風に値踏みされて喜ぶ人間はいませんからね」

「ーーー値踏みって。はっきりおっしゃいますね」

「今日は貴女と忌憚なく話し合うつもりできたのでね。ちなみにグランサム公爵とヴェネディクトが出かけたのはレディング伯爵に事業を理由に呼び出してもらったからです。彼らがいては貴女と話もゆっくり出来やしないですから」

真っ正面からグレースを見つめるのはこの間と違って含むもののない、真っ直ぐな視線だ。澄んだ視線は彼がグレースと真摯に向かいあっているのだと教えてくれる。

「そうでしたか……。では早速、お話を伺います」

ひとつ深呼吸をして、グレースはその視線をはっしに見つめ返した。

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