桜の下で会いましょう
尤もな意見だが、父・藤原照明もここで引き下がれない。

「依楼葉。この前の帝との事は、知っておるぞ。」

依楼葉は、ハッとした。

「帝は、朝方帰って行った。おそらく、枕を交わしたのであろう?」

依楼葉は、持っていた扇を、ギュッと握りしめた。


「隠しても無駄だ。佐島から聞いた。」

依楼葉は、庭にいた佐島を睨んだ。

佐島は、殺気を感じたのか、庭からこそこそと逃げて行く。


「だが帝はあれ以来、この家には通って下さらぬ。まさか、一晩の成り行きであったのか?」

「いえ……そうでは、ございません。」

あの時の事は、今も目を閉じると浮かんでくる。


甘い吐息。

恋しいと囁く声。

火照る体。

全てが、切ない恋の実った瞬間だった。


「ではそなたとて、もっと帝の側にいたかろう?女房になれば、帝のおわす清涼殿は、すぐ側。いつでも会える。」
< 178 / 370 >

この作品をシェア

pagetop