神志名社長と同居生活はじめました
「会社に押し掛けてくることもあって、もう来るなと何度言っても、私のことがまだ好きなんでしょって自分に都合の良い解釈ばかりしてきて、話が通じなくて」

「あ、それ私の元カレも同じでした……」

「そうなんだ。もしかしたら、失ったものを取り返すのに必死になっていたのかな?」


……そうかもしれない。
必死になりすぎるあまり、周りが見えていなかったのかも。

それだけ真剣な気持ちで私とヨリを戻そうとしてくれていたのなら、少しは嬉し……いや、あれは正直結構迷惑だったけど……。



「私には雪人しかいないから結婚も考えてるのって言って、周囲に俺の婚約者だって勝手に言いふらしてた時はさすがの俺も焦った……。
それでも、何度も直接話して説得して、ようやく理解してくれたよ。
先日、エントランスで雅が見た時が、あいつと最後に会った日だった」


そうだったんですか……と、私は一度、深い息を吐いた。

とりあえず、二人が恋人関係にある訳でも、本当に婚約者同士という訳でもないことが分かり、良かった。


だけど。



「それなら、どうして嘘吐いたんですか? わ、私とは遊びだったなんて……」

「……あの子とは、エントランスで話したのが最後だったって今話したよね?
でも、かなり思い込みが激しくて情緒が不安定な子だから、今後もまた俺に接触してくる可能性もあるし、その時は俺も向き合わないといけない」

「え?」

「元々は、そんな子じゃなかったんだ。本当に。
でも、俺があの子を変えてしまったところがあるから、あの子が前みたいに元気になるまでは、見守っていかないといけないと思ってる。勿論、恋人としてではなく、保護者……みたいな感覚だけれど。
だけどそれは完全に俺の都合だから。俺の都合で雅に嫌な思いをさせてしまうくらいなら、離れた方がいいと、あの時に思った。

……いや、本当はきっと、ずっとそう思ってた。
でも、君と離れたくなくて、気付かないフリをあの日までしていた」

「……話してくれてありがとうございます。
私は大丈夫です。
社長がこれからもあの女性と一緒にいることがあっても、嫌な思いをすることはありません」

「ありがとう……。
雅には、まだ話さないといけないことがある」


少し気が楽になった私とは違い、社長はまだ難しい顔をしている。


……私にとってあまり良くない話をされるのかな、と不安に思った。



それでも、聞きたい。たとえどんなことでも、社長の口から本当のことを全て聞きたい。



「社長。思ってること、何でも言ってください」


いつか言ってもらったその言葉を、今度は私が社長に……精一杯の笑顔で伝えた。



「うん」と答える社長。

彼が紡ぐその言葉は。



「…….君の家に初めて行った時。相手は誰でも良かったって言ったよね」

「はい。あまりにハッキリ言われたので、凄い失礼なこと言われてるはずなのに、怒りを通り越してただただ驚いちゃいました」

「あれは、嘘なんだ」

「え?」

「本当はーーずっと気になってた」
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