愛は貫くためにある
佐久間が帰っていったあと、麗蘭は佐久間が座っていた椅子に座った。
佐久間は自分を助けてくれた救世主で、命の恩人。その佐久間に恩返しをしなければ、と思い立つものの、一体何をしたらいいのかと麗蘭は悩みに悩んだ。

「桃さん、春彦さん、みゆ姉」

麗蘭がカウンターに立つ三人を見て言った。

「わたし、佐久間さんに恩返しがしたいの」

麗蘭がそんなことを言うので、麗蘭以外の三人は絶句した。
「あらまあ、麗蘭ちゃんからそんな言葉が出てくるなんて思わなかったわ」
「俺もびっくりしたぞ。いいことじゃないか、やってみたらどうだ?」
「やってみたら、って何をですか?」
麗蘭がきょとんとして言うので、美優は目を丸くした。
「何を、って。恩返ししたいんでしょ?何をしようとか決めてないの?」
「決めてない…」
「もう、麗蘭ちゃんったら」
美優は溜息をついた。

「みゆ姉、わたしどうすればいい?」
「そうね…佐久間さん前言ってたじゃない。話し相手になって欲しいって。仲良くなりたいって」
「あ…そっかあ!」
麗蘭はなるほど、と呟いた。
「そ。佐久間さんが来た時に話し相手になるだけでもいいと思うの」
「うん!みゆ姉、わたし佐久間さんとお友達になる」
「ふふ。なるんじゃなくて、友達になりたいんでしょ?」
桃はカウンターに両肘をついて両方の頬を両手で包んでいた。
「う、」
「麗蘭ちゃん、興味が湧いたんじゃないか?佐久間さんに」
「春彦さんまで!ち、違います」
麗蘭は桃から目を逸らした。
「顔赤くなってるぞ」
「ち、違いますってば!」
麗蘭が膨らませた頬は、ほんのり淡いピンク色に染まっていた。


麗蘭は、カウンターから佐久間をじっと見ていた。佐久間はそんな麗蘭に気づかずに、スケッチブックに何かを書いている。

(真剣な顔…何をしてるんだろう)

佐久間が命の恩人と知ってからというもの、麗蘭は佐久間に恩返しをするべく、佐久間が来た時にはいつも佐久間とお喋りをするようになった。
少しずつ、ではあるが。
麗蘭がじーっと見ていることに、ふと顔を上げた佐久間が気づいて目を丸くした。

(あっ…見つかっちゃった)

麗蘭はその場にしゃがみこんでしまった。佐久間の座るカウンター席には、うずくまっている麗蘭の姿は見えない。そんな子供がかくれんぼをするように隠れる麗蘭を、佐久間は目を細めてふっ、と笑った。

「麗蘭ちゃん」

佐久間がそう呼ぶと、麗蘭の声が聞こえた。
< 24 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop