愛は貫くためにある
「なんでも頼んでいいよ」
「やったー!ありがと!」
「こら、莉子。はしゃぐんじゃない」
三人は楽しそうに話していた。
そんな様子を見た麗蘭は、佐久間が遠い存在に思えてならなかった。

「佐久間さん、そのお二人は?」
「ああ、桃さん。このツインテールの子は、僕の妹で莉子。それで、こっちは姉の理沙子です」
「ああ、だから仲良かったのか」
「ええ、そうなんです」
そう言ったあと、佐久間は後ろに立っていた麗蘭に気づき、手招きした。

「おいで、麗蘭ちゃん」

麗蘭は、足がすくんで動けなかった。
麗蘭は、莉子に掴まれた左手がとても痛かった。それなのに、佐久間は助けてくれなかったと失望していた。
その上、莉子には睨まれるし嫌になってきた。

「麗蘭ちゃん?」

佐久間が心配して麗蘭のもとへ歩いてきた。麗蘭の顔を覗き込むようにして、佐久間は麗蘭を見つめた。
麗蘭は目を逸らし、2階へ上がろうと佐久間から離れて歩いていったが、佐久間は麗蘭を追いかけた。

「ねえ、麗蘭ちゃんってば。どうしたんだよ?」

麗蘭は佐久間の言葉には耳も貸さず歩いていたが、佐久間は麗蘭の目の前に立ち塞がった。

「ねえ、麗蘭ちゃん。せっかく来たんだからさ、話そうよ」

麗蘭は、とてもじゃないがそんな気分にはなれなかった。佐久間が来る時までは、幸せな時間が漂っていたのに空気は一変してしまった。
「妹さんとお姉さんと、ごゆっくり」
麗蘭はそう言って2階の階段へ向かおうとしたが、佐久間は麗蘭の手首を掴んだ。

「…っ!いたいっ!」

麗蘭がいきなり甲高い声で叫んだので、佐久間は驚いて手を離した。
「あ、ああ…ごめんよ?痛かった?」
佐久間は麗蘭の手首を擦ろうとするも、麗蘭は拒否した。
「ごめん、麗蘭ちゃん…」
「ちょっと!かずにいが謝ってんのに、何よその態度!」
莉子は、かつかつとヒールを鳴らして麗蘭に迫った。自分を思い切り敵視して睨む莉子に、麗蘭は怯えた。
「やめろよ、怖がってるだろ」
「だって、かずにいが謝ってんのに!」
「いいんだよ、僕が怖がらせるようなことしたから」
「もー!そうやって甘いからダメなのよ、かずにいは!」
「はいはい」
佐久間は苦笑いした。
「ごめんなさいね、麗蘭さん。莉子は、根は悪い子じゃないの。許してね」
「いえ、そんな…悪いのはわたしです。ごめんなさい…」
佐久間は再び、麗蘭ちゃんと呼んだが麗蘭は三人にお辞儀をして二階への階段を登ってしまった。

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