愛は貫くためにある
麗蘭は、玄関に座り込んだ。

(やっぱり、わたしは…かずくんに迷惑ばかりかけてる)

麗蘭は溜息をつき、体育座りをしながら玄関でうずくまっていた。
莉子の言う通り、和哉にはもっと相応しい人がいるという思いだけは、なかなか消えてくれない。和哉は本当に私のことを好きなのだろうかと思うことも少なくない。仕事が忙しいということはよくわかっていたつもりでいた麗蘭だったが、不安は増していく。和哉と本当に一緒にいていいのかと、麗蘭は悩んでいた。

(かずくんに迷惑かけないように…我儘を言うのはやめよう。それから…わたしから、かずくんに触れるのはやめておこう)

麗蘭は、和哉に触れることさえ諦めた。麗蘭はただ、寂しいからかまって欲しいと言いたかった。和哉に甘えたかった。こんな単純なことで落ち込むのかと他人から見たら笑われるかもしれないが、和哉に叱られた麗蘭は落ち込んでしまい、何をする勇気もなかった。和哉に触れることでさえ拒否されたかのように思えてしまったのだ。

そんなことを考えていると、睡魔が襲ってきた。麗蘭は重い瞼には勝てず、静かに目を閉じた。



「ただいまー!…って、え!?」
理沙子が、外出先から帰ってきたようだ。
「麗蘭ちゃん?どうしたの、麗蘭ちゃん?」
麗蘭を揺さぶるが全く起きない。
麗蘭は玄関でうずくまり、ぐっすりと寝ていた。
「もー、和哉は何やってんのよ…こんな可愛い麗蘭ちゃんをほったらかして…」
麗蘭の肩に上着を掛けて、理沙子は和哉の部屋に入っていった。



「ちょっと、和哉」
「ん?なに?」
「ん?なに?じゃないでしょ!何やってんのよ」
「え?姉さん、どうしたんだよ」
「はあ……。一段落した?仕事」
「ああ、うん。だいぶ形になってきた」
「そ。…ちょっとこっち来て」
和哉は不思議に思いながらも、玄関へと向かう理沙子を追いかけた。
「見なさいよ、ほら」
「あっ、麗蘭…」
「麗蘭ちゃんをほったらかしにして、何してんのよ。しかもこんなところで…」
「ご、ごめん。つい、夢中になって書いてたら…」
麗蘭の存在を忘れてしまっていたと、和哉は理沙子に白状した。
「これを聞いたら、麗蘭ちゃんどう思うかしらね」
「い、いや、それは…」
理沙子は、麗蘭にかけていた上着をそっと取って、自分で羽織った。
「こんな可愛い娘、泣かすんじゃないわよ」
そう言って、理沙子は自分の部屋へ入っていった。
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