耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー



薄桃色の花が一輪、夕風に揺れている。
きつい斜陽を遮る日傘の端に入り込んだその色に、美寧は思わず足を止めた。
薄桃色の花の向こう側にある茂みに目を遣ると、梅雨時期には美しい紫色の花で彩られていた面影は今はなく、くたびれた様子の葉だけが長く厳しい暑さに耐えるように茂っている。
紫陽花に隠れるようにして倒れていた美寧が怜に助けられてから、もう三か月近く経とうとしていた。


時刻は四時過ぎ。いつものように【カフェ ラプワール】でのアルバイトを終えた美寧は、帰路の途中。アルバイトを始めてはや二か月。この公園を通って行き来するのにもずいぶんと慣れた。
今暮らしている藤波家は、アルバイトをしている喫茶店からは公園を抜けて十分足らずだ。

(れいちゃんちの庭のコスモスも、そろそろ咲くかなぁ……)

立ち止まるとじっとりと額に汗が滲む。
頭上からは蝉の声が降り注ぐ。短い命を燃やしつくすような訴えの下、可憐な花を揺らす早咲きの秋桜。一足早く秋を告げる薄桃色の花に、美寧は見入っていた。

けれどしばらくすると、突然ハッと何かに気付いたように顔を上げ、足早にまた帰路を進み始めた。

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