旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
ゆっくりと首を動かすと、ベッドにもたれかかって眠る俊也さんの姿があった。

今夜はリビングのソファで眠るっていたけれど、もしかして一晩中、そばにいてくれたの……?

きっとそうだよね。彼はワイシャツ姿のまま。ずっとここにいてくれたんだ。

うまく言い表すことのできない感情が、溢れて止まらなくなる。

彼の寝顔を見て、好きと愛の違いに思い悩んでいた自分が、バカらしくなった。

なんとも思っていない相手のために、ここまでしてくれる? ……布団もかけずに寒かったよね? 起きたら身体だって痛くなっているはず。今日も仕事なのに……。

あたたかい気持ちで胸がいっぱいになる。

ごめんなさいと言いそうになり、唇を噛みしめた。

「……ありがとうございます、俊也さん」

どうしよう、自分の気持ちに気づいちゃった。……もう抑えることなんてできないよ。

私、もう俊也さんの気持ちを疑ったりしません。

愛してくれなくてもいい。好きでいてくれるなら。……これから先の未来も、ずっと私のそばにいてくれるならそれだけで充分だよ。

俊也さんのことが好き。そう認識した時――。

「……ひめの」

「えっ?」

俊也さん、今、なんて言った?

すぐに彼の顔を覗き込むものの、起きている気配はない。じゃあさっきのは寝言?

それにしても、どうして『ひめの』なんて言ったの?

一度も彼に『姫野』と呼ばれたことなどなかったのに。

不思議に思っていると、俊也さんの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。それは初めて見る彼の涙だった。
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