旦那様の独占欲に火をつけてしまいました~私、契約妻だったはずですが!~
口々に言われ、私はただ頷くことしかできなかった。

時間が合う時は、いつもお兄ちゃんが駅まで車で送ってくれていた。この日もお兄ちゃんが運転する車で会社に向かう。

信号が赤に変わり車を停車させると、お兄ちゃんは後部座席に腕を伸ばし、封筒を私に渡した。

「ほら、これ」

「え、なに?」

突然渡された封筒とお兄ちゃんを交互に見つめてしまう。すると耳を疑うことを言った。

「芽衣に会いたがっている男の写真。父さんから預かってきた」

「……えっ!?」

どうして? だってさっき、私のこと助けてくれたよね?

信号は青に変わり、車を走らせながらお兄ちゃんは言う。

「俺は別に会うだけなら会ってもいいと思うぞ? 断ってもいいんだから」

「でも……」

やっぱりまだ前向きにはなれない。

「じゃあせめて相手の顔くらい見てやったら?」

そう言うとお兄ちゃんは再び信号で停まった時、私の頭をポンと撫でた。

無理だよ、お見合いなんて。会うだけといっても相手に迷惑をかけるだけ。だって私の心の中には、やっぱりまだ俊也さんでいっぱいだから。

受け取った封筒をギュッと抱えた私を乗せて、お兄ちゃんはそれ以上なにも言うことなく車を走らせた。
< 242 / 262 >

この作品をシェア

pagetop