残酷なこの世界は私に愛を教えた
◇◇◇
「遅えよ」
「わり。でも電車には間に合っただろ?」
「威張るなよ」
日曜当日。
智久が電車発車時刻3分前に合流したことで全員揃った。
「いやー、やっぱ女の子が居ると華やかさが違うね」
智久が目を細めて言う。
「お前それ一歩間違えたら変態オヤジだから」
「酷っ。そんなことないよねー? まだピチピチの高校生だもーん」
「うわー、キモいわー……」
「え!? ちょっと待って酷くない!? そんなに本気で嫌がんないでよ!」
「ふふっ」
俺の隣で愛珠が笑う。
ああ、可愛い。愛珠には笑顔が良く似合う。
「仲良いね」
「そんなんじゃねえよ」
この笑顔をずっと見ていたい。
いつか病院で見た何の感情も映さない瞳や、悲しみや苦しみに歪む顔を見たくない。
守ってやりたい、なんて無責任な感情だって分かっている。
でもきっと愛珠は助けを求めてる。そう思うのは傲慢だろうか?
やはりまだ躊躇してしまう。あまり深く踏み込むと壮介のように傷付けてしまうのではないかと。
壮介が俺との時間を楽しんでくれていた、俺の言葉を受け止めてくれていたと分かった今でもあの出来事は俺の深い所に恐怖を巣食っている。
『隼人は、ぼくのヒーローなんだ。
ぼくが死んでも、そのままでいて。
そしてまた、誰かのヒーローになって。』
俺は、愛珠のヒーローになれるだろうか。
――ガタンッ!
電車が大きく揺れ、傾いた愛珠の体を左手で支える。
「ごめん」
「いいよ」
電車の揺れがおさまっても腕を回したままでいると愛珠は少しだけ恥ずかしそうに笑って、少しだけ俺に体重を預けた。