残酷なこの世界は私に愛を教えた
隼人の過去

封筒




◇◇◇



「あ、いらっしゃい愛珠ちゃん!」



今日も綺麗なお姉さんが出迎えてくれた。



「奥借りるぞ」



「いいわよー」



ずんずん進む先輩に着いていくと奥の個室に着いた。



「個室なんてあるんだね」



「ここはねーちゃんが休む時とか、俺が遊びに来たときに使わせてもらう部屋なんだよ。元々物置きみたいになってた所をねーちゃんが改造して作ったんだ。だから客は入れねーよ」



「そーなんだ。お邪魔しまーす」



――バタンッ



ドアが閉まり、完全に二人きりになって、なんだかとても安心する。


少しするとお姉さんが飲み物を持ってきてくれた。



「じゃ、高瀬さんの声が出たお祝いに。乾杯!」



「ふふっ、ちょっと大袈裟じゃない? でもありがと」



「智久には悪いけど、高瀬さんの声を独り占めしてると思うとなんか嬉しいな」



「ええ、性格悪っ」



「いつか完全に出るようになったらいいな」



「うん」



こんなちょっとした会話がとても心地がいい。



「そー言えばさ、お前のこと名前で呼んでいい? “高瀬さん”って、さ行多くて言いにくいんだよ」



「あ、いいよー」



「お前も俺のこと名前で呼んでいいから。……“先輩”だと智久とどっちか分かんねえからさ」



何で、思いかけたのを見透かしたように言葉を足す先輩。


やっぱり歳上だし、先輩って付けた方がいいよね?



「じゃ、隼人先輩?」



「面倒臭えじゃん、隼人でいいよ」



「ええ、呼びづら……」



「ほら、呼んでみ?」



「うぅ……はや、と……?」



「何で疑問形なの」



あはは、と先輩が笑う。その優しい笑い声が温かい空気を作り出す。ずっとここにいたいと思った。



その時。



「隼人ー? ちょっといい?」



部屋にお姉さんが入ってきた。



「んー? 何ー?」



「これ。山中さんから」



少し強ばった表情で手に持っていた封筒をテーブルに置く。

“山中”と聞いた瞬間隼人の表情が凍りついた気がした。



「……なん、て?」



「見てないわよ、あんた宛になってるから」



「……分かった。ありがとう」



明らかに隼人の声は低く、小さくなっていた。



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