旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
振り返って「お大事に」と重ねて言うと、看護師と共に部屋を出て行く。
私は寝たままその背中を見送って息を吐き出し、情けなぁ…と小さな声で呟いた。



「熱中症とか、初めてなった」


戸外で働きだしてから初めての経験。
こんなに体がダルくて、自由が効かなくなるものだとは思わなかった。


「頭、痛かったな…」


あの後頭部の頭痛も熱中症のせいだったのかと思い返す。
同時にえらく寒かったのも思い出して、沈み込んでいくような恐怖を感じたのも思い出した。



(…あの時、私を此処へ運んでくれたのが皆藤さん?)


今の医師の台詞ではそうみたいだ。
きっとグッタリして意識のない私を見つけ、かなり慌てて、どうすればいいかを連絡して訊いたんだろう。


(彼が狼狽えてるところ、私も見てみたかったな)


焦って冷や汗かくイメージなんて少しもない。
いつも和やかに笑って、話す彼しか知らない。


どんな感じなのかな、と思いながら目を伏せる。
すると急に昨夜のことが脳裏に蘇り、パチッと目を開けて天井を見遣った。



(昨夜、この部屋で皆藤さんとキスした)


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