旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
シャワーを済ませた私達が最初に向かったのは何故かお寿司屋さん。

此処であの香りは付けられたのだろうか…と店先に掛かる『鮨正』という暖簾を見つめ、ごくんと唾を飲み込んで皆藤さんを振り返った。


「入ろうか」


質問を受け付けない感じで暖簾をくぐる彼。
店先に立つと、「いらっしゃい!」と威勢のいい声に出迎えられ、ビクッと肩が上がった。


「おや、先生」


前に立ってる皆藤さんは、「先生はよして下さい」と言いながらお店に入り、後から入店する私の背中を前に押し出す。


「今日は妻の未彩を連れてきました。此処の美味しいお寿司を味わって貰おうと思って」


お任せするので何でも握って下さい、と言う。
それを聞いたお店の大将と思われる白帽を被ったおじさんは数回瞬きを繰り返して、私の顔をまじまじと見て微笑んだ。


「こんなに可愛い奥さんが居たんですか!そりゃ、うちの娘に靡かない訳だ」


ワハハ…と大きな声を出して笑い、側に立つ和服姿の女性が慌てる。


「お父さんっ!」


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