次期院長の強引なとろ甘求婚
二階の自室にこもっていた私を、階段の下から母親が大声で呼び出す。
何事かとドアを開けて「何?」と返事をすると、階段を上がってきた母親が「良かった、起きてるわね」と顔を見せた。
まだ二十一時を回ったばかり。お店だって少し前に閉めたばかりだ。寝るには早すぎる。
「未久にお客様なのよ、ほら、うちにたまに買いに来てくださる方で、三角さんと仰って――」
「えっ?!」
想定外の知らせに一瞬にして頭の中は真っ白。
うちに来てる?! なぜ?! え、今?!
「玄関でお待ちなの、今、お父さんが話しているから、早く下りてきて」
「え、ちょっ――」
用件だけを伝えると、母親はそそくさと階段を下りていってしまう。
開け放したドアの前でオロオロと無駄な動きをし、思い出したように部屋の中の鏡で自分の姿をチェックする。
幸い、お店から戻ってまだ部屋着にもなる前だった。
ぼさついている髪だけ手ぐしで整え、急いで部屋を出る。
うちに、三角先生が? そんなまさか……。
そんな思いで階段を下りていくと、その途中から本当に父親と三角先生が談笑する声が聞こえてくる。
半信半疑の思いでいよいよ階段を下り切ると、顔を出した玄関先には本当に三角先生の姿があった。