次期院長の強引なとろ甘求婚


 その日の晩――。

 閉店作業をし、すぐ裏にある自宅へと帰ると、先に帰っていた両親が食卓に揃ってついていた。


「ただいま」

「ああ、未久、おかえり」


 振り返った父親の張りのない声に首を傾げたくなる。

 その向かいに掛ける母親も冴えない表情で「おかえり」とこっちに目を向けた。


「どうしたの?」


 そう訊かざる得ない雰囲気に、ふたりの掛けるダイニングテーブルに近づく。

 食卓には、〝親展〟と入った銀行からの何通かの封書が置かれていた。


「未久にも、話しておかないといけないかもしれないな……」


 テーブルの上に視線を落としたまま、父親が重い口を開く。

 深刻な空気が嫌なほど伝わってきて、父親と母親の顔を交互に見ていた。


「何? どうしたの?」

「……店を、畳もうかと思ってるんだ」

「えっ……?」


 父親からの思わぬ告白に、心臓がドクッと嫌な音を立てて鳴った。

< 4 / 103 >

この作品をシェア

pagetop