異世界から来た愛しい騎士様へ


 今回も同じだった。
 ゆっくりと目を開けると、目尻から流れる温かい滴を感じた。
 けれど、いつもと同じなのはそれだけだった。

 エルハムが目覚めると、体に鋭い痛みを感じたのだ。


 「…………いたい………。私、何でベットに……。」


 体を少し動かしただけで、背中が痛んだ。背中の痛み。呆然としていた頭がやっと覚醒したのか、エルハムは背中の痛みの理由を思い出したのだ。

 咄嗟の事とは言え、どんな事をしたのかを考えると、自分でも驚いてしまう。武器を前に、飛び出るなど、普段のエルハムなら足がすくんでしまうのではないかと思った。現に、今思い出すだけで手が震えてきていた。

 
 「姫様っ!…お目覚めになりましたか?!」
 「……セリム……。」


 そこには、心配そうにエルハムを見つめるセリムの姿があった。男前の顔が少しやつれて見える。彼は心配して付き添ってくれたのかもしれない。

 ベージュと白を基調とした部屋。エルハムは、自分の部屋に寝かせられていたようだった。剣で斬りつけられたのは、確か国境付近のトンネルだったはずだ。
 うろ覚えの頭をフル回転させる。
 

 「………黒髪の男の子は!?」


 エルハムの前に現れた、見たこともない黒髪黒目で、剣術に長けた小さな少年。
 あの少年は無事だったのだろうか。エルハムが身を挺にして彼はこのシトロンの国へ来ているのだろうか。
 エルハムは軋むような痛みに耐えながらベットから身を起こした。

 すると、セリムは「無理はなさらないでください。」と言いながら、エルハムの体を支えてくれてのだ。


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