異世界から来た愛しい騎士様へ
すると、ミツキは大きなため息を付いてジロリとエルハムを見た。
ミツキが怒っているとすぐにエルハムもわかり、オドオドしてしまう。けれど、この方法しかないとエルハムは思ったし、どうしても本を彼に渡したかったのだ。
ミツキがきっと喜んでくれると思ったから。
「何でそんな危ない事を考えるんだ。おまえがコメットがいる国に1人で入るなんてありえないだろ。何かあったらどうするつもりだったんだ!」
「この方法以外だと私がチャロアイトに入国にしたとすぐにバレてしまうわ。そしたら、その方がコメットに気づかれてしまうと思ったの。」
「…………俺に一緒に入ればよかっただろ。エルハムだとバレても、俺が守ってやるだけだ。」
「だって、あなただってチャロアイトに行くのは危険だと許してくれなかったじゃない。………私は、どうしてもあそこに行きたかったの。」
エルハムは持っていた鞄をギュッと握りしめた。その中には、図書館から借りてきた本が入っている。
ミツキにそれを見せたら、喜んでくれるかと思っていた。元の国へ帰ってしまうかもしれないと悩みながらも、彼に読んで貰いたい。そう思っていたのに………。
エルハムは、悲しくなった気持ちを彼に気づかれないように俯き、小さく「ごめんなさい……。」と、ミツキに謝りゆっくりと後ろを向いた。
「私、着替えてくるから。……少しだけ待ってて……。」
こんな事で泣きそうになるのは子どもみたいだ。勝手にミツキのためだと思って張り切って、それが彼には迷惑になっていたのかもしれない。
それがとても情けなくて涙が出てきそうだった。年上なのに、一国の姫なのに……何をやっているのだろう。
涙が出る前に彼から離れたくて、エルハムは小走りで木陰に向かおうとした。
すると、体は何故か動かす変わりにふわりと温かいものに包まれて。それがどんどん強くなり、そしてドクンドクンという鼓動と吐息、そして好きな匂いを感じて、エルハムはミツキに後ろから抱き締められているのだとわかった。