異世界から来た愛しい騎士様へ



 ミツキは少し緊張した面持ちのまま、その本を受け取った。そのまま表紙を見つめ少し苦い顔をしながらも、エルハムに感謝の言葉を掛けた。
 けれど、しばらくそのまま本を見たまま、その場に立ち尽くしていた。ミツキは迷っているのだろうか。そんな風に思い、エルハムは彼の顔を覗き込みながら、「ミツキ……。」と呼んだ。


 「もしよかったら、ここで読んでいかない?読み終わってから、ミツキに聞きたい事もあるし。」
 「………あぁ。そうだな。」


 ミツキは、少し安堵した表情を見せてから、いつもの窓際のイスに座った。

 エルハムは、彼が読み終わるまで、仕事をして待とうと思い、彼と同じく窓際のイスに座り作業をしていた。

 ミツキが読んでいる古びた本は、ほとんどがこちらの文字で書かれていた。ミツキも読むことは出来るが、古い本になるとわからない言葉も多いと思った。
 それに、もし自分だったら一緒に誰かに居て欲しいと思ったのだ。
 自分が探し求めていた情報が手に入った時、それが良い場合も悪かった場合も、不安になったり、誰かに話を聞いて欲しいと思うと感じたのだ。
 もちろん、皆が同じ気持ちだとは思わない。
 けれど、ミツキも安心した表情になったのをエルハムは見ていたので、少しは彼の役に立てるのかと思い、エルハムも嬉しかった。



 夜の静かな部屋に、ミツキがページを捲る音が響く。時々、「これはどんな意味だ?」と、聞いてくる事があったけれど、それ以外ミツキは真剣な表情で本を読みふけていた。
 エルハムも、仕事をしていたけれど、今日は朝早かったことや、誰かの呼吸音が心地よくなって、ついうとうとしてしまった。それでも、何とか起きながらエルハムは彼が読み終わるのを待とうとしていた。





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