異世界から来た愛しい騎士様へ



   ☆☆☆




 「………っ………ゃ………。」


 セリムの熱い唇が何度も自分の唇を強く押し付けられ、エルハムは頭や体を動かそうとした。けれど、騎士団長であるセリムの腕はびくともしない。
 エルハムは、抵抗しながらも彼が与える熱に耐える事しか出来なかった。

 長い時間に感じたけれど、もしかしたら短かったのかもしれない。
 やっとの事で離れたセリムを、浅く呼吸をしながら、睨み付けた。けれど、頭がボーッとして、上手く力が入らなかった。


 「セリム………。」
 「私はずっとあなたを慕っていました。それなのに、専属護衛もあいつを選び……愛しい人としてミツキを見ている。……ミツキにエルハム様を守る権利を奪われるぐらいなら……私は専属護衛にならなくてもいい。私と結婚してください。」
 「………な、何を言っているの………セリム。」


 エルハムは瞳から涙が溢れた。
 先ほど無理矢理キスをされた時に、溜まっていたものだったけれど、セリムの言葉を聞いて我慢が出来なかった。

 「エルハム様、目を覚ましてください。ミツキは本当に異世界から来たのかもしれません。けれど、彼がどこかの国に先に住んでおり密偵として育ったかもしれないのですよ。現にあいつの部屋からはその証拠も出ている。」
 「お願い、セリム………もう止めて……。」
 「ミツキは、密偵なのです。」
 「もう止めてっ!」


 エルハムは大きな声を出して、セリムの言葉を止めた。
 セリムは驚いた顔を見せた後、すぐに切ない視線をエルハムに送った。


 「………どうしてみんなミツキを信じてくれないの?あの手紙の字は、ミツキではないじゃない。」
 「私証を持っていない人間など、亡霊と同じなのです。信じられるはずがありません。」
 「私証なんて、ただの紙切れよ。あれでどんな人間なんかわかるはずないわ。私証を持っている人でも、酷いことをする人は沢山いるじゃいっ!」


 エルハムは感情が高まり、大きな声で怒鳴りつけるようにセリムに言葉を投げた。
 誰かにこんなにも激しい言葉を使ったのは初めてだった。
 そのため、セリムも動揺している様子だった。


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