異世界から来た愛しい騎士様へ



 エルハムは、真実を知って愕然としてしまった。勝手に日本に帰れる方法があると思い込み、コメットの拠点まで1人で乗り込んでしまったのだ。
 自分の愚かさにエルハムは落ち込み、ギュッとシーツを掴んだ。
 それを見たミツキは、エルハムの前髪を手でよけて、露になった額に唇を付けた。

 突然の行動に驚き、エルハムはキスされた額に手を当てた。


 「なっ………急にどうしたの!?」
 「……俺のために頑張ってくれたエルハムが可愛いな、と思って。」
 「…………そんな事ないよ。私がよく考えもしないで行動してしまったのよ。………みんなにも迷惑かけた。もちろん、ミツキにも。」
 「俺は嬉しかった。エルハムが俺のためを思って動いてくれた事。それに日本の帰り方がわかったとしても、俺はこの世界に残ると決めてたんだ。気にするな。」
 「ミツキは優しすぎるわ………。それに、何だか………。」


 エルハムはミツキを見て、言葉を濁した。
 それを見て、ミツキは不思議そうにしながら「どうしたんだ?」と言葉の続きを促した。
 
 ミツキに言われ、エルハムは恥ずかしそうにしながら言葉を紡いだ。


 「何だか、ミツキはこういう恋人同士がするような事に慣れているわ。私はドキドキしてばっかりなのに………。」


 ミツキがこの世界に来てから、恋人などいなかったはずだ。それなのに、女慣れしているように思えたのだ。
 エルハムが喜んだり、胸が高鳴る事ばかりしてくる。そんな気がしていた。

 そんな様子を見て、ミツキはクククッと笑い、またエルハムを優しく抱きしめた。


 「俺はお前にしたい事をしてるだけだ。それをエルハムも喜んでくれてるって事だろ?」
 「それは………そうだけど………。」
 「今まで気持ちに気づかないように想いに蓋をしていたんだ。きっと開放されて、おまえに触れたい気持ちがあふれ出てるんだな。」
 「ミツキ………。」
 「これからも、同じように守っていくよ。前みたいに何か悩むことがあったら、俺に話してくれ。………話しにくい事があるなら、俺が聞くようにする。お前の変化には気づく自信があるしな。」
 「………わかった。ちゃんと話しをする。だから、私もミツキを守らせてね。2人でこうやって一緒にいれば、不安なんてなくなるはずだから。」


 エルハムは、ミツキの背中に腕を伸ばし、彼を抱きしめた。
 トクントクンとミツキの鼓動がエルハムの体に響いてくる。

 彼が生まれ変わりではなく、そのままの姿でエルハムの前に現れたのは、偶然かもしれない。

 けれど、その偶然が今は奇跡のように思えた。

 大切な家族であり、仲間だった彼。
 それがいつしか、愛しい人になった。


 いなくなってしまうかもしれないと怯えていた日々はもう来ない。
 エルハムは、ミツキの頬に両手を添えて、ジッと真っ黒な瞳を見つめた。
 キラキラの光る瞳は、夜空のように綺麗だった。

 「ねぇ、思ったんだけど………私が日本語が気になったのって、生まれ変わる前にもしかしたら日本に居たからかもしれないなって。」
 「そうだな………もしかしたら、あの世界でも俺たちはどこかで会っていたのかもしれない。そう思うと不思議だな。」
 「……………愛しい騎士様。この世界に来てくれて、ありがとう。」
 「………こちらこそ、小さかった俺を助けてくれてありがとう、俺のお姫様。」


 エルハムとミツキはクスクスと笑い合いながら、何度もキスを繰り返した。
 
 それを見て微笑むように、シトロンの国の太陽は今日も熱く光っていた。





               (おしまい)

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