異世界から来た愛しい騎士様へ
「俺は私証とかいうのを持ってない、正式なシトロンの民じゃないだろ。だから、俺の前なら正直に泣いてもいい。そうだろ?」
「………そう、なのかな?」
「笑わないし、話しを聞くだけなら俺に出切る。」
「そっか……じゃあ、お言葉に甘えよう、かな。」
「いいと思う。」
ミツキの提案をすんなり受け入れたのは、自分の弱さがあったからかもしれない。そんな風にエルハムは思った。
けれど、ずっと我慢していた事。そして、剣を向けられた時の恐怖。それを「いいんだよ。」と言っている存在が、欲しくて仕方がなかった。
そんな人をエルハムは求めていたのかもしれない。
自分よりも小さな彼の体は、とても温かく、何故か安心するものだった。ミツキのゆったりとした鼓動や、彼の鍛えられた体、くすぐったい吐息。すべてが、エルハムは心地よかった。
けれど、ミツキに触れられている背中の傷がずきんと痛んだ。
その瞬間に、すぐそこに剣を持った兵士に囲まれた事を思い出した。自分を姫だと気づかずに排除すべき敵だと思い込んでいる。殺気だった瞳と、殺伐とした雰囲気。そして、自分に斬りかかってくる剣先。
それを思い出した瞬間。
エルハムは、「怖い………怖かったの。」と呟いていた。自然と涙が出た。
人前でほとんど見せることはなかった、はしたいと思っていた、自分の涙。
ミツキの白い服に涙がこぼれ、染みを次々に作っていく。その涙のように恐怖だった気持ちが彼の中染み込んでいくのをエルハムは感じた。
何も喋らない。
ただ、優しく抱きしめさせてくれて、そして、抱きしめてくれるだけの彼が、怖がりな気持ちを受け入れ、不安を吸いとってくれている。
そんな感覚を心地よく感じならがら、エルハムはしばらくの間、涙を流し続けた。
契約よりも強い約束。
それが、エルハムにとって何よりも心強かった。