異世界から来た愛しい騎士様へ
しばらく、静かに道を歩く。
すると、持っていた本が入った袋を、ミツキが優しく持ってくれる。
「姫様に持たせてしまうなんて、申し訳ございません。」
「いいのよ。自分の事なのだし。」
「それと、先程は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。」
真っ直ぐとした姿勢のまま、ミツキは綺麗に頭を下げた。エルハムの目の前にサラサラとした艶のある黒髪がある。
きっと、下を向いている彼は複雑な心境だろう。突然異国に舞い降りた彼。ニホンに戻れないと思い10年を過ごしていたミツキに、初めてニホンの情報が入ろうとしているのだ。
焦るのも無理がない。
その情報が本当なのか、似た言葉なだけなのか、そして店主が思い出す事が出来るのか。今はまだ何もわからない。
けれど、ミツキにとっては10年にしてやっと母国を知れるチャンスが巡ってきたのだ。
彼は嬉しいに決まっている。そう、エルハムは思うと、胸がチクリと痛んだ。
それを隠すように、エルハムは彼の頭に手を伸ばして、サラサラとした黒髪を優しく撫でた。
「っっ!!……姫様、何を!?」
その感触を感じたのか、ミツキはバッと頭を上げてビックリとした表情でエルハムを見ていた。頬はほんのり赤くなっている。
それを見て、エルハムは少しだけ安心をして微笑んだ。
「頭を撫でただけよ。」
「な、何故頭を撫でるのですか。」
「………ニホンの事がわかりそうで、よかったなぁーと思って。ミツキも、嬉しいでしょ?」
頭を撫でていた手が行き場を失い、エルハムはゆっくりと自分の胸に手を当てて、その手をギュッと握りしめた。
エルハムの言葉を聞いたミツキは、少し考えた後、複雑な表情で視線を青空に向けた。