異世界から来た愛しい騎士様へ



 「私は大丈夫です。それより、あの人に危害を加えてはダメよ。」
 「………姫様、よくご覧ください。」
 「え?」
 「危害を加えられてしまうのは、私たちのようです。」


 セリムはそう言って、少年を見るようにエルハムに視線で促した。すると、そこには数人の騎士団員に囲まれて捕まえられそうになる少年。けれど、木の剣を使って次々に騎士団員の武器を落としたり、腕や腹などを木の剣で打たれ全く少年に近づけないのだ。
 それぐらいに、少年の剣術は強く、そして動きが早かった。

 騎士団員が使っている武器は剣ではなくこん棒。木の剣と同じような物だった。
 他国が攻めてくる時や凶悪な犯罪行為があった時以外は、剣が使われることはないのだ。少年一人を捕まえるのに、傷つける可能性がある剣は使わないはずだった。

 けれど、セリムはシャリッと細くて長い剣を鞘から抜いた。それを見て、エルハムは息を飲んだ。


 「セリム!何故、剣など!」
 「この者は姫様を傷つけ、騎士団員をも負かしてしまうほどの強者です。もしかしたら反乱者やスパイの可能性もあります。」
 「そんなっ!彼は違うは!」
 「姫様は危ないのでお下がりください。」


 セリムは剣を構えたまま、エルハムの話を聞かずに黒髪の少年に近づいていった。
 先ほどのこん棒とは違う剣を見て、少年は目を見開いたが、すぐに木の剣を構えた。
 エルハムは、少し体を低くする構えだが、少年は背筋をピンと伸ばし、剣先をセリムのこめかみに合わせて、ピタリと動かなかった。
 初めて見る剣の構え方だったが、エルハムはそれがとても綺麗だと思った。剣術の事はわからない。けれど、真っ直ぐに前を見て、臆することなく堂々と凛と立つ姿は、洗練されて見えた。
 セリムも同じように感じていたのだろうか。それとも初めて見る構えを前に、戸惑いが見られていた。
 
 けれど、お互いに鋭い視線で見つめ合い、無言の駆け引きをしているようだった。



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