COLOR



「俺はどっちでも良いよ、ホテルでも冬華の家でも
実家じゃないだろ?
どのみち、送ってくから冬華の家はぜったい教えてもらうよ
いや、どうせなら暫く俺んちで…………」

「わ、わかったから!」


冬華は慌てて俺の言葉を遮る
「こっち」と手を引いてくれた
ちゃんと繋いでくれてる

強引過ぎるのはわかってる
嫌われてしまうかも知れないことも

嫌われても、嫌がられても、もう離す気はない
父さんに殴られて目が覚めた


「冬華、いっぱい教えて」


俺はぎゅっと手を握りしめた


「ここなの」

「あ……………」


冬華に案内された家には
書道家のお兄さんが書いた表札も
一緒に乗った白い自転車も
初めてのデートで買った鉢植えも
ちゃんと、あった

鍵を開けて入ったそこは、やっぱり、冬華でいっぱいだった
ツンとこみ上げてくる物をグッと抑えた


「お茶、入れるね」

「冬華!」


俺は冬華の腕を取って引き寄せた
抱き締めた身体は震えている


「なつ、離して………」

「ごめんっ、俺、俺、」

「わかったから、離して」


穏やかなその声は俺が知ってる冬華だ
いつも、穏やかだった

少し拗ねた声も
恥ずかしそうに紡ぐ声も好きだったけど

「なつ」って穏やかな包んでくれる声が一番好きだった


俺はゆっくり身体を離して
離れる温もりに縋りたくなるのを抑えた
ちゃんと、話さないと


「俺の知らない冬華を知りたい」



俺たちの長い夜






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